「好きなのに言葉が出ない」現象の正体
胸が高鳴る瞬間に出てくるのは、決まって「やばい」「最高」「無理」などの強い感情の叫びだ。
にもかかわらず、いざ誰かに推しの魅力を伝えようとすると、途端に言葉が止まる。
これは語彙力の問題ではない。
むしろ感情の揺れが大きいからこそ、言葉が追いつかないだけだ。
本書が示すのは、「感じているのに言葉にできない」という壁を越えて、
“自分の言葉”で推しを語れるようになるための、ごく小さな技術である。
自分の「好き」を見失わないための視点
感想は、他人の言葉をなぞった瞬間に曖昧になる。
強い言葉や評価がSNSに溢れるなかで、自分の感情がどこにあったのか簡単にわからなくなる。
大切なのは、感情の中心にある“自分だけの感覚”を拾い上げることだ。
それは「ありのまま」ではなく、“他人から混ざっていない状態の自分”という意味に近い。
ありきたりな言葉が感想を奪う
「泣ける」「やばい」「考えさせられる」──
こうした常套句は便利だが、使った瞬間に思考が止まる。
言葉らしさをつくるための語彙ではなく、
自分の感覚をそのまま捉えた“最初の手触り”を拾う方が、はるかに表現は鮮やかになる。
感想は読解力ではなく“妄想力”で広がる
感動の核心は、事実を分析することでは生まれにくい。
「なにがそんなによかったんだろう?」と自分の中で転がしていくことが、言語化の源になる。
考察でも正解探しでもない。
ただ、自分の頭の中で自由にこねるだけで十分だ。
「好き」は揺らぐからこそ言葉に残す価値がある
人も作品も、自分も変わる。
絶対に揺るがない「好き」など存在しない。
だからこそ、そのときの鮮度のままに言葉にしておくと、
後で読み返したときに「たしかに自分はこれを好きだった」と、
自分の人生の一部を確かめられる。
今日ひとつだけやる言語化の小さな練習
やることは、ひとつだけでいい。
推しを見た直後に、他人の感想を見る前に、自分の感覚を最初に書き留める。
1分でできるメモの型
① “よかった瞬間”を一つだけ選ぶ
どれほど曖昧でも構わない。「あの表情」「あの間」「あの声」くらいのレベルでいい。
② その瞬間を三行だけ書く
考察しない。説明しない。
起きた事実をそのまま切り取る。
例:
- 目線がゆっくり上がった
- 声のトーンがいつもより低かった
- そこで息を飲んでしまった
③ なんで心が動いたのか“妄想”でいいから一言つける
正解でなくてよい。自分が思いつく理由を、そのまま置く。
それだけで、言語化の筋肉は確実に育つ。
余韻を残しながら締めくくる
推しの魅力を語るのは、誰かを喜ばせるためだけではない。
自分の感情の輪郭を、自分で丁寧に確認する行為でもある。
他人の言葉に流される前に、まず自分の“最初の感覚”を拾う。
その習慣が積み重なるほど、自分の言葉で語れる世界は広がっていく。

